大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和47年(オ)1121号 判決 1974年3月19日

上告人

野田治

右訴訟代理人

樫本信雄

外一名

被上告人

織田義市

右訴訟代理人

立野造

外一名

主文

被上告人の本訴請求中上告人に対し第一審判決添付目録第一記載の宅地につき昭和二九年九月一二日大阪法務局江戸堀出張所受付第一二五一四号所有権移転請求確保全仮登記に基づく所有権移転登記完了と同時に同第二記載の建物の収去を求める部分に関する原判決を破棄し、右破棄部分を大阪高等裁判所に差し戻す。

上告人のその余の上告を棄却する。

前項の上告費用は、上告人の負担とする。

理由

上告代理人樫本信雄、同竹内敦男の上告理由第一点について。

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠に照らして肯認することができ、その過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであつて、採用することができない。

同第二点及び第三点について。

原判決は、訴外小場勘一は昭和二五年四月原審控訴人前田ハツから第一審判決添付目録第一記載の宅地(以下本件宅地という。)を買い受けたがその所有権移転登記をしなかつたところ、昭和二九年三月本件宅地を被上告人に売り渡したが、その所有権移転登記は中間を省略して前田ハツから直接被上告人に対してされる旨の合意が右三者間に成立し、被上告人は同年九月一二日主文第一項記載の仮登記を経由したこと、一方、上告人は本件宅地上に右目録第二記載の建物(以下本件建物という。)を所有しているが、そのうち家屋番号六七番の二、三木造瓦葺二階建店舗一棟床面積一階七坪六合九勺、二階七坪九勺については昭和二七年七月四日これを他から買い受けるとともに、当時本件宅地の所有者であつた小場勘一から本件宅地を建物所有の目的のもとに賃借し、右建物につき同月五日所有権移転登記を経由したこと、被上告人は昭和四六年六月一五日到達の書面をもつて上告人に対し昭和二九年九月一四日以降昭和四六年五月末日までの賃料を四日以内に支払うよう催告し、上告人がこれに応じなかつたので、同年六月二一日到達の書面をもつて上告人に対し賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことを、それぞれ確定したうえ、右賃貸借契約は同日解除されたとして、被上告人が土地所有権に基づき主文第一項の所有権移転登記完了と同時に上告人に対して本件建物の収去を求める本訴請求を認容したものである。

しかしながら、本件宅地の賃借人としてその賃借地上に登記ある建物を所有する上告人は本件宅地の所有権の得喪につき利害関係を有する第三者であるから、民法一七七条の規定上、被上告人としては上告人に対し本件宅地の所有権の移転につきその登記を経由しなければこれを上告人に対抗することができず、したがつてまた、賃貸人たる地位を主張することができないものと解するのが、相当である(大審院昭和八年(オ)第六〇号同年五月九日判決・民集一二巻一一二三頁参照)。

ところで、原判文によると、上告人が被上告人の本件宅地の所有権の取得を争つていること、また、被上告人が本件宅地につき所有権移転登記を経由していないことを自陳していることは、明らかである。それゆえ、被上告人は本件宅地につき所有権移転登記を経由したうえではじめて、上告人に対し本件宅地の所有権者であることを対抗でき、また、本件宅地の賃貸人たる地位を主張し得ることとなるわけである。したがつて、それ以前には、被上告人は右賃貸人として上告人に対し賃料不払を理由として賃貸借契約を解除し、上告人の有する賃借権を消滅させる権利を有しないことになる。そうすると、被上告人が本件宅地につき所有権移転登記を経由しない以前に、本件宅地の賃貸人として上告人に対し賃料不払を理由として本件宅地の賃貸借契約を解除する権利を有することを肯認した原判決の前示判断には法令解釈の誤りがあり、この違法は原判決の結論に影響を与えることは、明らかである。したがつて、この点に関する論旨は理由があるから、その余の論旨について判断を示すまでもなく、原判決中本判決主文第一項掲記の部分は破棄を免れない。そして、右部分につきなお審理の必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(関根小郷 天野武一 坂本吉勝 江里口清雄 高辻正己)

上告代理人樫本信雄、同竹内敦男の上告理由

第一点 <省略>

第二点 原判決には、法律の解釈適用を誤つた違法がある。

一、原判決は、上告人に、被上告人に対抗できる本件宅地の賃借権があつたことを認めながら、甲第一七号証の一(催告書)甲第一八号証(条件付契約解除通知書)により、右賃借権が解除されたと判示した。

二、(1) 併し、本件訴訟の形態を見れば、被上告人は上告人に対し、第一次的に本件宅地は、自分が買受けたものであるから本件宅地の所有権は被上告人にあり、従つて、上告人に対し、本登記をすることにつき承諾を求め、右本登記完了と同時に不法占拠を理由とする本件建物の収去を求めており、それに対し上告人は第一次的に、本件宅地は、自分が買受けたものであると云つて、被上告人の所有権を否認し、被上告人の右請求の棄却を求め、予備的に、被上告人に対抗できる賃借権を有するから、右被上告人の請求の内、建物収去の請求の棄却を求めたものである。

(2) そうであれば、本件訴訟の争点は、第一次的に、本件宅地を、上告人、及び被上告人の何れが買受けたものであるのか、従つて、所有権が上告人及び被上告人の何れにあるのかであり、そして第二次的に、果して、上告人に、被上告人に対抗できる賃借権があるのか否かである。

(3) 然らば、先ず、本件宅地の所有権が何れに帰属するかは、原審判決が確定するまで不明であり、次に、所有権が被上告人にありと確定しても、果して、賃借権があるか否かも、原審判決が確定するまで不明である。従つて、被上告人の上告人に対する地代請求権は、先ず、本件宅地の所有権が被上告人に帰属する事が確定し、更に、上告人に賃借権があると確定するまでは、潜在的な請求権である。

即ち、右地代請求権は、本件宅地の所有権が、被上告人に帰属する旨の判決、更に、上告人に賃借権がある旨の判決(勿論、理由中の判断ではあるが)が確定することを停止条件とする請求権である。

さもなければ、本件の如く、所有権の帰属を争つた上告人は予備的主張のため、主たる請求を認めなければならないことになる。

そうであれば、被上告人は、右条件が成就していない時期に上告人に対し、右地代支払を請求する権利はなく、従つて、甲第一七号証の一及び甲第一八号証の一で為した、地代支払請求及び、解除の意思表示は無効である。

三、よつて、原判決が第一項の如き判示をしたのは、右に述べた如く被上告人の上告人に対する解除の意思表示が無効であるにも拘らず、解除権が発生しているとして賃貸借契約を解除したこととなり、明らかに、法律の解釈適用を誤つたものと云わなければならない。<以下略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例